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 創製エレクトロ二クス材料講座

ナノ材料・計測領域

教授 片山光浩   准教授 久保理   助教 田畑博史   事務補佐員 田代桂子

 研究概要

 シリコントランジスタの微細化の限界を十数年後に控えた現在、数々の課題を打破すべく熾烈な開発競争が続いている。これに伴い、原子・分子エレクトロニクス、ナノワイヤエレクトロニクス、量子コンピュータ、非ノイマン型コンピュータなど、シリコントランジスタとは全く異なった原理で機能するデバイスやアーキテクチャが提案されはじめている。このような新機能デバイスの主体素子は、おそらく既存の半導体ではなく、新材料、しかも元からナノ構造化が為されたナノ材料から作られるであろう。同時に、素子間の原子オーダーのばらつき制御に対処できる新しい極限計測技術が重要になると思われる。本領域では、このような観点から、以下に大別される2つの研究を中心に進めている。
(T)低次元ナノ材料をベースとした新機能デバイス開発
  カーボンナノチューブやグラフェン、遷移金属ダイカルコゲナイドなどの低次元ナノ材料の作製制御技術を基盤として、これらの材料同士あるいはその他の機能性材料とのハイブリッドナノ構造の構築により、新機能デバイスを試作する研究をおこなっている。特に、ナノ電子・光デバイス、超高感度センサー、熱伝導・エネルギーデバイスのための要素技術の開発に関する研究を進めている。
(U)極限計測技術の開拓とそれによるナノ材料の機能探索
  上記の新機能デバイスなど、ナノメータレベルでの“ものづくり”のためには、それに適した計測技術や表面科学的研究にもとづいたアプローチが必要である。これを踏まえて、ナノ材料の新しい機能の発掘を目指して、イオン散乱法、およびカーボンナノチューブ機能性プローブを用いた走査トンネル顕微鏡(STM)などの極限計測技術の確立とそれによるナノ材料の機能探索に関する研究を進めている。


 研究内容

(1)シリコン原子から成る2次元シート“シリセン”の作製と機能探索
  2010年のノーベル物理学賞で有名となった炭素1原子層からなるグラフェンは、高キャリア移動度チャネル材料や透明導電性材料として電子デバイスへの利用が始まりつつある。しかし、現在のシリコン半導体プロセスからの転換は容易ではなく、シリコンベースの新材料が望まれている。そこで、最近発見された、グラフェン同様の六員環構造を持つシリコン2次元シート“シリセン”を取り上げ、その作製法や構造、電子物性についてSTMなどの走査プロ―ブ技術を基に探索する。
(2)半導体表面・界面構造形成プロセスの解析と機能探索
 STMやイオン散乱分光法、高分解能電子顕微鏡を駆使して、薄膜太陽電池や高効率光触媒材料として期待されているFe2O3や、低コストパワーデバイス材料としての利用が検討されているGa2O3などの形成過程を原子レベルで解析し、その表面・界面構造と材料特性の相関を解明する。
(3)ナノリボン・ナノチューブなど1次元材料の作製と物性評価
 ナノサイズの材料には、結晶にはない様々な物性を持つ可能性が秘められている。例えば、上述のグラフェンをナノサイズ幅のリボン状にした構造(グラフェンナノリボン)は、幅によりバンドギャップが変化することや、自発スピンにより磁性が発現する等、2次元シートのグラフェンとは異なる物性を持つことが示唆されており、新機能デバイスへの応用が期待されている。本テーマでは、STMやラマン分光法を用いて、これら1次元材料の形成メカニズムと基礎物性を解明する。
(4)低次元ナノ材料の機能化技術と超高感度センシングデバイスの開発
 単層カーボンナノチューブ、グラフェン、およびMoS2等のカルコゲナイド系層状物質に代表される低次元ナノ材料は非常に大きな比表面積をもつため、ガス分子の吸着や光照射に伴う電荷の授受に非常に敏感で、その影響はコンダクタンスや誘電率等の変化として現れる。このような敏感な物性変化を示すナノ材料はガスセンサーをはじめとするセンシングデバイスのコア材料として注目されている。これらのナノ材料をベースとしたガスセンサーの実用化においては、ガス分子が複数存在する環境下で、目的のガスを選別して検知することが必要である。そのために、センシングコアに用いるナノ材料と対象ガス分子との相互作用を解明し、また対象ガス分子との反応を促進する被膜材料や効果的な検知方法の開発を行い、これらにもとづいて、分子認識型超高感度ガスセンサーや光センサーを開発し、ユビキタスセンシングシステムの構築を目指す。
(5)原子膜ヘテロ構造の機能探索と機能性デバイスの創出
 グラフェンやカルコゲナイド系層状物質(MoS2等)は2次元層状物質であり、単層化によって、原子1〜数個分の厚みの薄膜(原子膜)を形成することが出来る。この原子膜自体の物性もさることながら、異なる原子膜同士を積み重ねて形成されるヘテロ接合は、バルク材料同士の接合界面で形成されるショットキー接合やPN接合とは異なった物性を持つことが予想され、また、この特異な接合を利用した光・電子デバイスや各種センサーへの応用が期待されている。一方で、原子膜は比較的新しい材料系であるため、薄膜形成技術やヘテロ構造作製、デバイス作製技術等はまだ確立されていない。そこで、原子膜の形成・取扱技術の開発に取り組みながら、原子膜ヘテロ接合の機能探索を行い、それを利用したデバイス開発(ガスセンサー、光・電子デバイスなど)を進めていく。
(6)原子層薄膜の成長技術開発
 (4)、(5)で挙げたような2次元層状物質のデバイス応用において、再現性や信頼性のあるデバイス特性を得るためには、層数制御された、大面積で高品質な単結晶が必要不可欠である。しかし、大面積単層薄膜の形成技術は確立していない。そこで、我々はダイカルコゲナイド系層状物質であるMoS2の単層の大面積単結晶を合成すること当面の目標として、熱化学気相成長法を用いた成長技術開発と、その成長を支配するメカニズムの解明を進めていく。
(7)カーボンナノチューブ機能性プローブを用いた極限計測技術の開発と応用
 走査プローブ顕微鏡とは、光学顕微鏡や電子顕微鏡のように光や電子線を用いることなく、ナノスケール空間の形状や各種の物理量を計測できる装置である。簡便な装置構成で多様な環境での計測が可能であることから、今後の材料開発やナノサイエンス発展の礎となりうる装置であるが、その鍵を握るのは各種の物理量を計測するセンサーの役割を果たす「プローブ」である。例えば、カーボンナノチューブをプローブとして用いると、その分解能が飛躍的に向上すると期待されている。そこで、独自に開発したカーボンナノチューブ機能性プローブを用いて、ナノスケールの電気抵抗計測や、一分子の振動モード計測などのナノサイエンスの研究に応用する。

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