ナノマテリアルエレクトロニクス領域

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研究概要

半導体デバイスの中心的な材料は、長年にわたりシリコンでした。シリコンを用いた成膜技術や微細加工技術は飛躍的に発展し、現在の情報社会を支える基盤となっています。しかし近年では、トランジスタの微細化による性能向上が限界に近づきつつあることや、パワー半導体に求められる高耐圧・高耐熱といった要求に対して、シリコンの物理特性だけでは十分に対応できない場面が増えてきました。このような背景から、シリコンに代わる新しい半導体材料の開発が強く求められています。 本研究室では、その有力候補として炭素材料に注目しています。炭素はシリコンと同じ4族元素でありながら、結合様式の違いにより、ダイヤモンドのようなワイドギャップ半導体からグラフェンのような高移動度ゼロギャップ半導体まで、極めて多様な物性を示します。カーボンナノチューブやフラーレンなども含め、炭素は単一元素でありながら多様な機能を発現できる点に大きな特徴があります。これらの材料の中には、既存の半導体材料を凌ぐ優れた特性を示すものも数多く報告されています。 一方で、炭素材料を用いた電子デバイスは、いまだ限定的な応用にとどまっており、本格的な社会実装には至っていません。すなわち、この分野には依然として大きな未開拓領域が残されています。本研究室では、カーボンナノチューブや二次元材料を用いたナノスケールデバイスから、ダイヤモンドの結晶成長とデバイス応答に至るまで、異なるスケールとアプローチの研究を横断的に展開しています。これにより、炭素材料の持つ多様な可能性を引き出し、次世代の電子デバイス基盤である「カーボンエレクトロニクス」の実現を目指しています。

研究内容

(Ⅰ)低次元ナノマテリアルをベースとしたガスセンサの開発
図
光照射下のMoS2ガスセンサのNO2に対する応答
AIやIoT技術の発展により、さまざまな情報をリアルタイムに取得・解析する技術が重要になっています。近年では、物理現象そのものを計算資源として活用する「Physical AI」と呼ばれる考え方も注目されており、現実世界の情報を高精度に取得するセンサの役割はますます大きくなっています。特にガスセンサは、呼気診断による健康状態の把握や環境モニタリング、安全管理など幅広い分野での応用が期待されています。一方で、ガスセンサを含む化学センサは、他の物理センサと比べて発展途上にあり、高感度・高選択性・高速応答・高信頼性を同時に実現することに加え、モバイル・ウェアラブルデバイスへの搭載に向けた小型化と低消費電力化が求められています。そこで本研究では、グラフェンやカーボンナノチューブ、2次元材料といった低次元ナノマテリアルに注目しています。これらの材料は、原子レベルの構造と大きな比表面積により、周囲環境のわずかな変化にも敏感に応答するという特長をもち、優れたセンシング材料として有望です。本研究では、これらのナノ材料の作製・構造制御技術を基盤とし、異種材料とのハイブリッド化や光・プラズモンとの融合によるセンサ性能の向上に加え、マルチセンサ化と機械学習を組み合わせたガス種識別性能の高度化に取り組んでいます。 これまでの研究において、金属イオンと錯体形成可能な特殊なリガンド分子をSWNTに修飾し、配位金属種を変えることで、ガス種ごとに異なる応答特性を付与できることを明らかにしています。これらのセンサの応答を組み合わせることで、類似した特性を持つガスの識別検知が可能となります。また、2次元半導体である二硫化モリブデン(MoS2)を用いたガスセンサでは、可視光照射下で応答させることで、室温で高速な応答・回復を示す光活性化ガスセンサの作製にも成功しています。現在は、マイクロLEDとの一体化による超低消費電力ガスセンサの実現に取り組んでいます。
(Ⅱ)ヘテロエピタキシャル成長ダイヤモンド大面積基板の開発とデバイス応用
図
ダイヤモンド半導体放射線検出器
ダイヤモンド半導体結晶は高いキャリア移動度、高い絶縁破壊電界強度、高熱伝導率などの優れた物性をもつことから次世代のパワーデバイス・高周波デバイス材料として期待されており、さらに、結晶中の窒素-空孔中心(NVセンター)のスピン状態は室温で高度な量子制御を行うことができるため、量子コンピューティングにおける量子ビット、量子センサーへの応用が近年、積極的に検討されています。しかし、ダイヤモンドデバイスの実現のためには克服すべき課題があり、その一つにダイヤモンド半導体結晶の大面積化および結晶品質の向上があげられます。そこで、本研究では大面積化のためのヘテロエピタキシャルダイヤモンド基板合成法の確立を検討しており、これまでにφ=50 mmを超える結晶サイズの大型化に成功しています。また、ヘテロエピタキシャル結晶成長では貫通転位と呼ばれる結晶欠陥が異種材料界面より高密度に発生し、デバイス特性を低下させることから、貫通転位密度の低減が強く望まれています。そこで選択的横成長法等を用いた結晶成長プロセスの開発を同時に推進し、結晶品質の向上を目指しています。また、ダイヤモンド半導体結晶はそのバンドギャップが5.47 eVと大きいため、結晶中の深い結晶欠陥の生成機構が未だ明らかになっておらず、そのような深い結晶欠陥の新規評価法の開発を行うとともに、その生成機構を解明することでダイヤモンド結晶の高品質化を図っています。さらに、ダイヤモンド半導体結晶へのホウ素、リン等の不純物導入技術の確立を目指すことでデバイス化を推進し、高キャリア移動度、高絶縁破壊電界強度等特性を生かしたパワー・高周波デバイスおよび高放射線耐性を生かした放射線センサー等、その結晶の特徴を生かしたデバイス応用に取り組んでいます。